第106章 義勇の新しい継子〜冨岡義勇 時透無一郎【R強】
無一郎は足の裏を怪我して歩けないゆきをひょいと抱え上げると、屋敷へと向かって走り出した。
「落ちると危ないから、ちゃんと首に手を回して捕まってて」
最初に出発する前、そう淡々と言われたきり、二人の間に会話はなかった。
耳元で聞こえる無一郎の規則正しい呼吸と胸の鼓動。
それに反して、ゆきの胸の中は不安と切なさでぐちゃぐちゃに乱れていた。
しばらくして、無一郎の足並みがふっとゆるやかになる。
屋敷の敷地に入ったのだと気づいた直後、甲高い声が響いた。
「無一郎様、おかえりなさいませ!」
美月が、出迎えに出てきていると気づいたゆきは、慌てて首に回していた腕を解いた。
身を引こうとするゆきを意に介さず、無一郎は美月に向かって静かに告げる。
「ゆきが足を怪我しているから、部屋まで僕が運ぶよ」
美月と共に待機していた隠が申し訳なさそうに「私がお抱えします」と手を差し伸べたが、無一郎はその手をすれ違いざまに拒み、そのまま奥へと足を進めた。
しかし、連れて行かれたのはゆき自身の部屋ではなく、隣にある無一郎の部屋だった。
畳の上にそっと下ろされ、思わず声が漏れる。
「あ、あの…」
「君は怪我して歩けないでしょ?夜は僕が一緒にいるから」
無一郎はそう言うと、迷いのない手つきでゆきの着物の帯へと手をかけた。
「な、何するの…!?」
唐突な行動に跳ね起きようとするゆきを、無一郎は静かな瞳で見下ろす。
「勘違いしないで。着物が泥で汚れてるし、体も拭いたほうがいいでしょ?今日はお風呂には入れないから」
「それなら…女性の隠の方に頼むからいいよ」
必死に拒むゆきの言葉に、無一郎は少しだけ眉をひそめ、吐息交じりに囁いた。
「今更恥ずかしいなんて言わないでよ。僕たち、とことんお互いの隅々まで知っている関係でしょ?」
冷たくもどこか逃がしてくれないその言葉に、ゆきは返す言葉を失い、ただじっと無一郎を見つめることしかできなかった。