第43章 響く歌声、癒される心
それから、と相澤は共に寮を後にした。
背後の灯りが静かに消えていき、夜風が2人の間をそっと撫でていく。
「いい文化祭になるといいですね」
相「そうだな」
見上げた月明かりが、2人の横顔を淡く照らす。
同じ方向を見て、同じ歩幅で歩く。
それだけのことが、不思議と心地いい。
ふっと視線が重なり合い、同時に笑った。
その小さな幸福が、相澤には誰よりも嬉しかった。
相「…そういえば、明日。壊理ちゃんのところへ緑谷と通形を連れて行く。………気にしてるみたいでな」
「そうなんですね…」
幼い少女が背負うにはあまりに深く、残酷な闇。
の表情は自然と曇ってしまう。
相澤は歩みを緩め、優しく続けた。
相「にも会いたいそうだ。予定…大丈夫か?」
「えっ…!もちろんです!!嬉しい…!」
壊理ちゃんが自分を求めてくれること。
その言葉がの心にふわっと灯りをともす。
それが見えて、相澤の頬もわずかに緩んだ。
相「じゃ、決まりだな。朝9:00に扉の前まで迎えに行く」
そして、何の前触れもなく。
大きな手が、そっとの頭に乗った。
一瞬、呼吸が止まる。
迎えなんて、なくても平気。
今だって、こうして送ってくれている。
それでも、その気遣いがただただ嬉しくて胸が温かくなる。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
自然と笑みがこぼれた。
その柔らかな笑顔に、相澤もまた静かに目を細める。
夜の空気が、音もなく2人の間を流れていく。
2人の関係は一体何なのか。
友達でもない、恋人でもない、家族でもない。
ただの同僚でも、ない。
言葉にした瞬間、壊れてしまいそうな関係。
だけど、言葉にしないからこそ続いている関係。
見えない糸で、静かに結ばれているような感覚。
信頼して、支え合って、想い合って。
でもどこにも名前がつけられない。
触れればもっと近づく。
引けば寂しくなる。
そんな、歪で、曖昧で、でも確かに温かい関係。
この想いは、いつか名前を持つのだろうか。
それとも、この曖昧さのまま、誰にも見せない特別として、そっと続いていくのだろうか。
2人の影がゆっくりと重なりながら、夜々の闇に溶けていった。