第42章 戻らない未来、守りたい命
翌朝。
はまだ重い身体を引きずりながらも、病室の白いシーツを押しのけて起き上がった。
窓の外は薄く曇り、空気までどこか泣いているようだった。
相澤が止めるのはわかっていた。
緑谷も、通形も、きっと何も言わず支えてくれるだろう。
でも——それでも行かなきゃいけない場所があった。
葬儀場は静まり返っていた。
誰もが泣きすぎて声を失い、白い花の香りだけがふわりと漂っている。
祭壇の中央に置かれたナイトアイの遺影は、あの日と同じ、あの優しい笑みを浮かべていた。
その前に立った瞬間、胸の奥が、ぎゅ…っと締めつけられる。
(…本当に、いないんだ)
涙は、思っていたよりもすぐに溢れた。
火葬の直前、職員が静かに声をかけてくる。
「最後のお別れを……どうぞ」
足が震えた。
歩けると思わなかった。
けれど、誰かの手が背中を支えてくれている気がした。
相澤かもしれないし、通形かもしれない。
それとも……ナイトアイ自身かもしれない。
は棺のそばに膝をついた。
目を瞑っているナイトアイは、眠っているようで、でももう二度と目を開けないことを告げる静けさをまとっていた。
ナイトアイの優しさを思い出しただけで、胸がぽたりと涙を落とす。
ゆっくりと身を乗り出し、ナイトアイの額に唇を重ねる。
昨日までの温かさはない。
その冷たさに、また胸が締め付けられた。
そして治癒の光は生まれない。
個性の気配もない。
静かで、暖かくて、祈るようなキス。
(ありがとう。助けてくれて、守ってくれて。……ありがとう)
声にはならなかったけれど、涙がぽたり、ぽたり、とこぼれていった。
通形は歯を食いしばって泣き、緑谷は胸に手を当てて震えていた。
相澤は……目元を覆い、ただ耐えるように静かに立っていた。
(未来さん……さようなら)
唇を離した瞬間、胸の奥がひどく冷えて、でもどこか少しだけ温かかった。
それは、ナイトアイが残してくれたものが、確かに自分の心に生きている証のようで。
棺の蓋が静かに閉じられたとき、は両手を胸にぎゅっと握りしめた。
もう二度と会えない事実を喉の奥で震わせながらただ、涙を流した。