第42章 戻らない未来、守りたい命
を背に病室を出て扉を静かに閉めたあと、相澤は廊下にひとり立ちすくんだ。
人気のない静かな廊下。
照明の白い光だけが、相澤の影を長く伸ばしている。
壁にもたれると、ふぅ、と深い息をついた。
その吐息には、悔しさ、苦しさ、安堵……
いろんな感情がひとつに混ざっていた。
そして、小さく呟いた。
相「……無茶してばっかりだ。自分の命より、他人のことばかり……。そんな生き方、いつか本当に壊れるぞ」
言いながら、自分の胸の奥がぎゅっと痛むのを感じる。
相「……なのに…放っておけるわけ、ないだろ」
目を伏せ、静かに続ける。
相(泣くなら、支える。立てなくなるなら、何度でも抱き起こす。苦しいなら寄りかかればいい……そのために俺がいる)
そして、ほんのわずかに笑った。
疲れきった、泣き出しそうな、でも優しい笑み。
相「なあ、……生きていてくれて……本当に……よかった………」
その声は震えていて、相澤自身がいちばん信じられていないような、かすかな吐息だった。
ぐっと膝に手をつき、ずるずると壁にもたれるように座り込む。
額を腕に押しつけて隠した目が赤いのは、誰も見ていなければ、きっと本人も気づかないふりをしただろう。
相(……もう二度と、こんな思い…したくない…)
胸の奥で、痛みとも怒りともつかない塊が脈打つ。
相(守れなかったらどうする。失ったらどうする。そんな未来……考えるだけで吐き気がする)
唇を噛みしめ、短く息を震わせる。
相「……無茶ばかり、しやがって……」
怒鳴ることもできず、泣くこともできず。
ただ、胸の奥にこみ上げる熱を必死で押し殺す。
けれど次の瞬間、ぽつりと零れたひと言だけは止められなかった。
相「……生きててくれて、……ありがとう」
その言葉は誰にも届かないはずなのに、まるで祈りのように、静かに空気の中へ溶けていった。
しばらくして、ゆっくりと身体を起こす。
乱れた髪を無造作に後ろへ払い、深く息を吸って、感情を押し込めるように目を閉じた。
そしてもう一度だけ、の病室のドアを静かに見つめる。
相(……頼むから。どうか……もう少しだけ……俺のそばにいてくれ)
声にならない願いを胸にしまい、相澤はようやく病院の出口へ向かって歩き出した。