第42章 戻らない未来、守りたい命
は、相澤の胸の中で嗚咽しながらも、ほんの一瞬だけ、肺がひらくように空気が吸えた。
相澤の匂い、温度、腕の感触。
その全部が“生きていいんだ”“まだ大丈夫だ”と教えてくれる。
彼の腕があるから。
彼の胸があるから。
彼の静かな息遣いが耳元にあるから──。
は、死にそうなほど痛い心のなかでも、まだ立っていられる。
相澤はその小さな震えを感じ取りながら、ただ、静かに、深く、を抱きしめ続けた。
相「…大丈夫だ。俺がいる。はひとりじゃない」
を抱えた相澤は、誰にも顔を見られない位置で、一度だけ……そっと目を閉じた。
震えはしない。泣きもしない。
けれど、その表情はあまりにも痛かった。
ヒーローである相澤が今、“守れなかったもの”の重さに押し潰されそうになっていた。
目を開けたとき、いつもの無表情とはかけ離れた、深い悲しみと悔しさが静かににじんでいた。
そしてそのまま、腕の中のを落とさないように抱え直すと、ゆっくりと病室を出た。
廊下は静かで、足音との浅い呼吸だけが響いていた。
相澤は、泣きつかれて意識が朦朧としたを両腕で抱き上げたまま、の頬に張りついた泣き跡を親指でそっと拭った。
相(…俺が、を守る)
そう決意した顔は、誰にも見せたことのないほど強くて、凛としていて、愛に満ちていた。
病室のベッドにをゆっくり降ろすと、乱れた髪を整え、布団を肩までかけてやる。
指先でほんの一瞬だけ、の頬へ触れた。
温かい。
生きている。
その事実だけで、全身の力が抜けそうになった。