第29章 静かな熱、寄り添う心 ※
お見舞いを終え、病院を出る頃にはすっかり夕方。
空は薄橙に染まり、蝉の声が静かに響いていた。
「久しぶりに冷さんに会えてよかった。なんかあったかい時間だったね」
轟「…ああ。母さんも、すごく嬉しそうだった」
その瞬間、ポケットの中で轟の手がまた少し強く握られた。
今度は隠さずに。
このまま帰りたくない。
そんな想いが、ほんの一瞬、胸の奥をよぎった。
そのとき、轟のスマホが震える。
開くと、冬美からのメッセージだった。
冬〈お母さんのお見舞いどうだった?良かったら帰り、2人で家によって食べてって!私もに会いたいから!〉
轟は心の中でガッツポーズをした。
嬉しい気持ちを何とか抑えながら、に伝える。
轟「姉さんが、ご飯食べてかいないかって…」
「えっ、いいの?でも悪いよ〜…」
轟「……断ったら姉さんが拗ねる」
「じゃ、じゃあ……少しだけ!」
2人で歩き出すと、轟の胸は少しずつ早鐘を打ち始めた。
の横に並ぶだけで心臓が跳ねる。
轟(……なんでだ、こんなに緊張してるんだ)
視線をそっとに向けると、柔らかな笑顔が轟の胸を温める。
このまま、ずっと隣に居てほしい。
頭では冷静でいようと思う。
だが心は正直で、に触れる距離、声を聞ける距離が、どうしようもなく愛おしかった。
小さな手の動き、髪の揺れ、笑い方。
どれも轟の胸に焼き付いて離れない。
轟(……が、好きだ)
そんな想いを必死に胸の奥に閉じ込め、2人は静かに、しかし確かに、轟家へ向かって歩みを進めた。