第20章 奪われた手、攫われた光
生徒たちを送り出したあとの静かな車内。
窓の外を眺めていたが、ふと隣の相澤を見上げた。
「…なんだか、疲れてます?」
相「…そうだな。疲れてなくはない」
声はいつも通り落ち着いているのに、どこか硬い。
「あとで疲労回復しますか?」
その一言に、相澤の肩がわずかに跳ねる。
ほんの一瞬、相澤の頭に別の意味が過ぎったのを、本人も自覚していた。
相「……っ、あぁ。頼む」
言葉にしてから、喉が渇いたように感じた。
ただの疲労回復のはずなのに、心臓が静かに速くなる。
「はい、任せてください!」
何の悪気もない笑顔。
その無邪気な表情が、むしろいちばんタチが悪い。
相澤は短く息を吐いて、窓の外に視線を逃がした。
相「…生徒がいないと、やけに静かだな」
「静かすぎて、落ち着かないですか?」
相「…いや、悪くない」
会話が途切れても、沈黙は妙に優しい。
手を伸ばせば届く距離に、の温もりがある。
それだけで、もう十分に癒されていた。
静かな時間がしばらく流れた。
は、カタカタと揺れる車体のリズムに身を委ねている。
うとうとと眠気に負け、首がゆっくり傾いていく。
相澤はそれに気づき、そっと手を伸ばした。
そして何気ない仕草で、自分の肩へとの頭を導く。
前にも、こうして眠っていたな。
その温もりに、相澤の表情が緩む。
相(まったく…油断しすぎだ)
ほんの少し体温が触れるだけで、心臓が騒がしくなる。
隣で眠る横顔を盗み見るたび、理性が静かに軋む。
やがて、の手が揺れに合わせて相澤の手の甲に触れた。
その一瞬を、相澤は振り払わず、守るためだ、と自分に言い訳をしながら、そっと包み込む。
やがてバスが止まり、がはっと顔を上げると、相澤は静かに微笑んだ。
相「……着いたぞ」
柔らかく繋いでいた指先が、名残惜しそうに離れていった。