第18章 英雄の物語、嵐の前の静寂 ※微
轟「俺はずっと、を見てきた。子どもの頃から」
「……え?」
月明かりに照らされた轟の横顔は、穏やかで、けれどどこか痛みを抱えている。
轟「爆豪みたいに真っ直ぐぶつかることはできねぇ。でも…俺の気持ちも、あいつと同じくらい本気だ」
その静かな告白に、の胸が締めつけられた。
「焦凍…」
名前を呼ぶと、轟はほんの少しだけ困ったように笑う。
轟「今はまだ…誰を想ってもいい。迷ってもいい。それでも、の視線の中に、俺がいないのは嫌なんだ」
風に震えるほど静かな声。
でも、その想いはまっすぐだった。
次の瞬間、轟の腕がそっとの肩を包んだ。
力は込めていない。逃げ道を奪うでもない。
ただ、“離したくない”気持ちだけが伝わってくる抱擁。
轟「…今だけでいい。少しだけ、こうしてていいか」
は何も言えなかった。
耳元で聞こえる穏やかな鼓動が、あまりに優しくて、あまりに熱い。
「焦凍…」
轟「わかってる。間違ってるのも、越えちゃいけないのも。それでも今は…止めらんねぇ。わりぃ」
爆豪の烈火のような想いとは違う。
けれど同じくらい真剣で、深くて、あたたかい気持ち。
冷たい夜風の中で、の胸だけがじんわり熱を帯びていく。
新しい痛みと、新しいぬくもりが同時に残った。
轟の腕の中で、は静かに目を閉じた。
夜風がふたりの髪を揺らし、街灯の光がわずかに揺れる。
互いの呼吸が近い。
轟はほんの少しだけ身体を傾けた。
の顔へ、ゆっくりと近づく。
その気配に、の心臓が大きく跳ねた。
唇が、触れる寸前。
は小さく息を吸い、そっと轟の胸に手を置いた。
「……焦凍」
掠れた声に、轟の動きがぴたりと止まる。
数センチ先で、ふたりの視線が絡んだ。