第16章 見守る覚悟、触れたい本音
その瞬間――
切(何考えてんだ俺)
理性が、遅れて追いつく。
慌てて距離を取る。
切「す、すんません!怪我なくてよかったっす!」
声が少し裏返る。
は小さく息を吐いた。
「うん……助かった。ありがとう、鋭児郎」
名前を呼ばれる。
その呼び方が、いつもより柔らかく聞こえた気がした。
倉庫の空気が妙に静かで、さっきまでの何気ない関係に戻れない感覚が残る。
切(踏み込んだら、終わる)
分かってる。分かってるのに。
さっき一瞬だけ向けられた、戸惑った瞳が頭から離れない。
“先生と生徒”だった距離が、一瞬だけ壊れかけた。
切島は拳を握る。
切(ダメだろ俺。これ以上、踏み込んだら戻れねぇ)
でも、“リミッター”が確かに軋んだ音がした。
拳をぎゅっと握る。
切(今はまだ、越えねぇ。でも、いつか、ちゃんと隣に立つ)
その決意だけが、胸に残る。
も、胸を押さえる。
(……今の、なんだったの)
優しいだけじゃない。
一瞬、男の目をしていた。
倉庫の扉を開けると、廊下の喧騒が戻ってくる日常の音。
何事も無かったように、2人は体育館を後にした。
の胸には、消えない熱が、そっと残った。
切島の胸には、触れた体温の甘い余韻と、それでも今は越えないと決めた男の覚悟が、同じ熱を帯びて静かに燃えていた。