第18章 …隻眼ノ呪詛
(……気に入らない、か)
アルベルは、思わず微笑んだ。
背中でルナーリア族の炎が、夜風の中で静かに、だが力強く燃え上がる。
傷付いた翼を休める様にその場に腰を下ろした彼は、何時か来る『その日』迄……懸命に生きようと、心の中で静かに誓うのだった。
……荒涼とした灰色の世界から、再び花の都の城へ。
城の廊下にある柱の陰に姿を現したゾロは、何時もの一味の剣士へと戻る。
数分前迄、あの海軍大将を精神崩壊させていた男とは思えない程、その心は静かで落ち着いていた。
ゾロが廊下を抜け、提灯が照らす宴会場へと歩み出る。
そこでは先程と変わらず、ジンベエが豪快に大盃を傾け、ハーデスがその隣で静かに座っていた。
ジンベエは、ゾロがほんの少しの間だけ夜風に当たりに、あるいは用を足しに行って戻って来たとしか思っていない。
「おお、ゾロ、戻ったか。いやいや、この国の酒も、なかなかに旨いのう」
「そうだろ?ここの酒は、おれも気に入ってんだ」
ゾロは楽しげ気にそう言うと、自分の定位置である床に腰を下ろし胡座を掻いた。
小鳥の姿をした使い魔が何時の間にか戻り、ゾロの隣に座るハーデスの足元へと音もなく舞い降りた。
そして、青い光の粒子となって彼女の影に吸い込まれる様に、静かに消えて行った。
(ゾロ様……! 良かった、本当に無事で……!)
ハーデスの頭の中から、言い表せない程の熱を帯びた好意の思念が、津波の様にゾロの心へ流れ込んで行く。
彼が読心術を使える事は、勿論彼女も知っている。
しかし、彼に対する高まる気持ちを抑えようとするのだが、抑え切れずにどうしても溢れ出てしまうのだ。
表向きは昔馴染みとしてすまし顔をしているつもりなのだが、そのペールパープル色の瞳は潤み、頬はほんのりと赤く染まっている。
彼女の熱い思念は、否応なしにゾロに伝わり続けていた。
(……ったく、しょうがねえ奴だな……)
内心苦笑しつつも、悪い気はしない。
自然とその口端は緩んで行った。
「お帰りなさい……ゾロ」
ハーデスは小声で呟きつつ、震える手で徳利を持ち上げ、ゾロのぐい呑みへと酒を注いだ。
トクトク……と、心地良い音が辺りに響く。
その様子を見ていたジンベエは、ただ豪快に笑って自身の盃を掲げた。