第18章 …隻眼ノ呪詛
そんな彼に応える様に、ゾロは目を伏せ微笑むと、傍らに控える魔人……死神へと向き直った。
「死神……この幽界の護り、引き続き頼んだぜ」
「御意。我が王よ、どうぞご武運を」
大鎌を携えた死神が、深く、恭しく頭を下げる。
ゾロは笑みを見せ頷くと、アルベルの隣に立った。
「行くぞ、アルベル。元の場所へ戻る」
「……ああ」
「……トラポート」
ゾロが呪文を唱えると同時に、地面に青白い幾何学模様が浮かび、その光が彼等を包み込んだ。
瞬間、吹き抜けたのはワノ国の乾いた夜風。
戻って来たのは、先刻迄アラマキが暴れ回っていた兎丼の採掘場である。
だが、周囲の光景は一変していた。
主であるアラマキの精神と魂が破壊された事で、採掘場を覆い尽くしていた不気味な森はすっかり生気を失い、白く立ち枯れていたのだ。
干からび倒れていた者達も、気を失ったままだが元の姿に戻っていた。
夜風が吹く度に、枯れ木がサラサラと灰になって崩れ落ちていく。
ゾロはアルベルの傍から数歩だけ歩き、距離を取った。
アルベルは長年ワノ国を支配し、民を苦しめて来た百獣海賊団の大看板。
この国に於いては、まだ許されざる罪人である。
それを誰よりも理解しているアルベルは、逃げる素振りも見せず、静かにその場に立ったままゾロの背中を見詰めた。
ゾロは振り返らずに、東の空に浮かぶ月を見ながら口を開く。
「……もし、お前がおれを認めてくれるんなら」
低く、落ち着いた声だった。
「何時か起こる世界政府……いや、更に上の敵との戦いに、力を貸してくれ」
「……なっ……?」
「戦いは必ず起こる……この支配された世界を変える為の『戦争』だ……勿論、おれの事が気に入らねえのは判ってる。お前を破り、カイドウの野望を打ち砕いたのはおれ達だからな……全て、お前次第だ」
ゾロはそこで初めて、肩越しにアルベルを振り返った。
その右目には、幽界で見せた様な悍ましい闇はない。
「……じゃあ、またな」
その言葉を残し、ゾロの体は再び青白い光に包まれ、音もなくその場から消え去った。
残されたアルベルは、暫くの間、ゾロが消えた場所を黙って見詰めていた。
世界政府の更に上。
あの男が見据えている戦いとは……一体どれ程凄まじい領域なのだろうか。