第18章 …隻眼ノ呪詛
(カイドウさん……あんたが言っていた『自分を倒し、世界を変える男』ってのは……)
カイドウを倒した男は勿論、目の前にいるこのロロノア・ゾロではない。
しかし……。
(……まさか、こいつが……)
彼の力を目の当たりにし、呆然とするアルベルに、ゾロは不敵な笑みを見せた。
「……まあ、そんな怖い顔すんなよ。お前らしくもねえ。仮にもお前は、おれと死闘を演じた強敵なんだぜ。だが……そうだな。あの時のおれよりは、強くなってるとは思うぜ」
「……しらばっくれるな、ロロノア」
アルベルは傷の痛みを堪え、ゆっくりと立ち上がった。
六メートルを超える巨体がゾロを見下ろす形になるのだが、不思議とゾロを見上げている様な錯覚に陥る。
「何故、お前がおれの本当の名……『アルベル』の名を知っている? それに、何故敵であるおれを、あの海軍大将から庇う様な真似をした……!」
アルベルの問いに、ゾロは笑みを消し、その右目で真っ直ぐにアルベルの瞳を見据えた。
「おれの仲間が、命懸けで世界政府の機密文書を奪い取って来たんだ。そこにお前の名前も、お前が政府の連中にどんな酷え実験をされて来たかも、全部書いてあったんだ」
「……なっ!?」
「同情した訳じゃねえ。ただ、おれと剣を交えた誇り高い強敵が、大した事のねえ『腐った政府の犬』に、惨めに殺られる事に……ちょっと腹が立っただけだ」
三刀流の剣豪は右腰に軽く手を遣りながら、静かに言葉を続ける。
「……『天竜人』だか何だか知らねえが……腐った連中を守るあいつ等に、お前の命を奪う資格はねえよ、アルベル」
その言葉は、アルベルの胸の奥深くに強く響いた。
政府の研究所で実験動物として痛め付けられ、絶望の淵にいた自分を救い出してくれたのは、圧倒的な暴の力を持つカイドウだった。
だが、目の前の男は、また違う……世界の理そのものを嘲笑い、心底から己の信念と誇りを持ち、しっかりと立っている。
(……なるほどな。だからお前は……本物の『王』になれたのか……)
アルベルは、目を閉じ静かに息を吐いた。
かつて『神』と呼ばれた一族の生き残りは、目の前に立つ新しき『死の王』に対し、初めて敵としてではない、深い敬意を込めた視線を向ける。