第18章 …隻眼ノ呪詛
広々とした会場の片隅で、静かで落ち着いた酒盛りが始まった。
ゾロとはまた違う、ジンベエの豪快さと懐の深さに、ハーデスは安心し微笑んだ。
そんな彼女が時折見せる大人びた艶やかな横顔に、ゾロは思わず息を飲む。
その動揺を隠す様に、黙ってぐい呑みを傾けた。
そして、三杯目のぐい呑みを空にした、その時。
空色の羽をした可愛らしい小鳥が一羽、何処からともなく飛んで来て、宴会場の高欄の手摺に止まった。
高欄に背を向けて座るジンベエは、その小鳥に気付いていない。
小鳥と目が合ったゾロは、心の中で呟いた。
(……来たか……!)
ゾロは隣に座るハーデスに目配せすると、徐に立ち上がり、ジンベエに視線を移した。
「ジンベエ、悪りぃがちょっとの間、こいつと飲んでてくれ。すぐ戻る」
ゾロの言葉に、ジンベエは笑顔を見せつつ無言で頷いた。
ハーデスは立ち上がったゾロの背中を見つめ、思わず小声で呟く。
「……ゾロ……」
心配そうなその声と、真っ直ぐな思念が彼に届く。
魔王は彼女を安心させる様に、ニヤリと笑って頷くと、刀を背負い宴会場を後にした。
城の階段を降りる彼の背後に、何時の間にかあの小鳥……ハーデスの『使い魔』が音もなく飛んでいた。
ゾロはその使い魔に、敵の居場所を訊いた。
「……海軍の奴は何処に居る」
「敵は『兎丼』と呼ばれる場所近くに着陸、この『花の都』に向かって移動中です。そこ迄トラポートでご案内致します」
美しい鳴き声で、使い魔はそう返答した。
兎丼……嘗て、カイドウが武器を製造する為に造り上げた、巨大な工場地帯が残る地域。
無実の罪を着せられたワノ国の人々が過酷な労働を強いられ、数多の命が奪われて行った絶望の地。
その工場から垂れ流される有害物質で土地は汚染され、水すらまともに飲めない死の荒野となり果てていた。
今は、ルフィ達に敗れた百獣海賊団が捕らえられ、収容されている場所である。
そこは、現在地である花の都のすぐ南に位置する。
一刻を争う事態である。
「頼む!」
ゾロの鋭い一声。
使い魔は死皇帝の左肩に舞い降りると、すかさずトラポートを唱えた。
青白い光に包まれ、一瞬で兎丼の上空に移動する。
そこから俯瞰するゾロの隻眼に飛び込んで来たのは、異様な光景だった。