第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
『それは、魔女がこの世に残した【執】の種子である』
悠蓮が死んでもなお残した、執着。
感情。
願い。
五条家から盗まれたそれを。
「……が取り込んだら」
「え……」
「真澄は千尋の種子を取り込んで、千尋の記憶や感情が自分のものみたいに混ざった。だけど、は元々、悠蓮の阿頼耶識を受け継いでる」
自身の阿頼耶識の底に。
かつての自分が残した【執】を、もう一度戻したら。
それは、ただ他人の感情が混ざるのとは違う。
眠っているものを、無理やり起こすようなものなんじゃないか。
以前が話していた、悠蓮の記憶の中で見たという光景。
夥しい数の死体。
その中心に、たった一人立っていた血だらけの女。
『……魔女でした』
『……怖いんです。私も、あんなふうになるんじゃないかって』
諏訪烈が欲しいのは、の魔導だけじゃない。
悠蓮の生まれ変わりであるに、悠蓮が遺した【執】を戻す。
もし、それがあいつの狙いなら――。
「を、魔女に戻すつもりだ」
伊地知が青ざめた顔で、息を呑んだ。
「このことが上に知られたら……死刑執行の保留も取り消しだろうね」
「そ、そんな……」
上に知られるのも時間の問題だろう。
まぁ、そんなことは僕が絶対にさせないけど。
「には、僕から話す」
もっとも――。
薄々、気づいてる可能性はある。
最近のを見ていれば、それくらいは分かる。
「……分かりました。私は、釘崎さんたちの様子を見てきます」
伊地知は頷いてタブレットを閉じ、非常階段を出ていった。