第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「……が魂を送る時に、相手の記憶や感情に触れるのも、阿頼耶識とかなり密接に関わっている可能性があるってことか」
なら、が見ていたものは、死者の記憶そのものというより――阿頼耶識の底に残った“種子”だったってことか。
「でも、それなら……の中にある悠蓮の記憶は、どこから来たの?」
伊地知は、すぐには答えなかった。
タブレットを持つ手に、わずかに力が入る。
「そこなんです」
「……」
「この考えが正しいなら、さんの力そのものは、彼女自身の阿頼耶識と深く結びついている。そして、彼女の中に現れている悠蓮の記憶も、その阿頼耶識から来ていることになります」
「自身の?」
「はい。さんの場合、少なくとも今のところ、他人の【執】の種子を後から取り込んだという事実は確認されていません」
伊地知は一度言葉を切って、唾を飲み込んだ。
「悠蓮の記憶も、感情も、執着も。外からさんの中へ入ってきたものではなく――最初から、彼女自身の阿頼耶識に存在していたと考えるのが自然です」
最初から。
自身の阿頼耶識に。
そして、阿頼耶識は肉体が死んでも消えず、その種子と共に次の生へ引き継がれる。
そこまで考えて、ようやく全部が繋がった。
「……くくっ」
「ご、五条さん……」
「そういうこと、ね」
悠仁の中に宿儺が受肉したように、別の魂が後から入り込んで、一つの身体の中に存在しているわけじゃない。
悠蓮の記憶も。
感情も。
執着も。
それは全部、外から持ち込まれたものじゃない。
種子として、最初から自身の阿頼耶識に眠っていた。
悠蓮から続いた先にいるのが、なんだ。
は、悠蓮の器なんかじゃない。
「――悠蓮の生まれ変わりだ」