第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
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しばらくして、赤い血液バッグが僕たちの前を通り過ぎていった。
採血室から運び出され、そのまま処置室の扉の向こうへ消えていく。
どうやら、の血は適合したらしい。
「……」
ほんと。
慣れはしても、気持ちのいいもんじゃないよね。
呪術師の仕事は、呪いへの対処。
つまるところ、人間から生まれる負の感情と向き合い続ける仕事だ。
憎しみ。
嫉妬。
恨み。
後悔。
今回みたいな、くだらない悪意も。
その悪意につけ込んで、さらに誰かを壊そうとする悪意も。
僕が受け持つ生徒たちは、これから先も嫌ってほど、そういうものを見ていくことになる。
救えないこともある。
間に合わないこともある。
正しいことをしたって、何も報われないことだってある。
そういう諦めとか、苦しみとか、絶望とか。
そんなものを一つずつ積み重ねながら、人は大人になっていく。
七海も、そんなこと言ってたっけ。
僕は向かいに座る野薔薇へ、ちらりと目を向けた。
紙カップを両手で握ったまま、じっと床を見つめている。
いつもの威勢のよさも、憎まれ口もない。
……まあ、野薔薇は大丈夫でしょ。
今は無理でも、きっと立ち直る。
野薔薇は情が深いところもあるが、他人と自分をきっちり切り分けられる冷たさも持っている。
誰かの不幸まで自分の不幸にして、全部抱え込むようなタイプじゃない。
時間はかかるだろうけど、ちゃんと自分の足で立つはずだ。
問題は――。
僕は、が消えていった採血室の方へ目を向けた。
(……あの子だよなぁ)
恋人だから、僕が過保護になってるだけなのかもしれない。
そう思わなくもない。
でも、は、他人の痛みと自分の痛みを切り分けるのが下手だ。