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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第30章 「善意の逆理 Ⅲ」


「あ、野薔薇ちゃん」

「すぐ戻る。ちょっと……顔洗ってくるだけよ」



野薔薇ちゃんは私たちの顔を見ずに答えて、待合室の奥へ歩いていった。


(野薔薇ちゃん……)


少し丸まった背中を見ているとたまらなくなって。
私が腰を浮かせると、肩にぽんと大きな手が置かれた。



「、そっとしておいてあげな。今は、一人になりたい時だからさ」



先生のその言葉に、立ち上がりかけた身体を椅子に戻した。
肩から離れた先生の手が、私の頭をよしよしと優しく撫でる。



「伊地知。ちょっと飲み物買ってきてよ。こういう時は、温かくて、とびきり甘ーいやつが沁みるのよ」

「それは、五条さんが飲みたいだけでは……」

「あっ?」

「……っ、すぐ買ってきます」



伊地知さんが足早に廊下の向こうへ去っていく。
待合室には、私と先生だけが残された。


先生は私の隣に腰を下ろす。
長い足を組んで、天井の白いライトを見上げた。



「飛び降りた子。野薔薇の友達だったんだって?」

「……はい」



野薔薇ちゃんは真澄ちゃんに手を伸ばして、泣きながら、怒りながら。



『私のところに帰ってきなさいよ、真澄』



そう叫んでいた。

虎杖くんが一度亡くなった時でさえ泣かなかったと、伏黒くんから聞いたことがある。

そんな野薔薇ちゃんが、あんなふうに涙を流していた。

真澄ちゃんが、野薔薇ちゃんにとってどれだけ大切だったのか。
痛いほど伝わってきた。



「そっか」



先生は短くそう言って、それからじっと私の顔を見た。



「……は、大丈夫なの?」

「え?」

「さっきからずっと、無理してるでしょ」



私は、膝の上でぎゅっと手を握った。



「私は……」



今つらいのは、野薔薇ちゃんだ。
私まで泣いてどうする。

そう思っているのに、先生に見つめられていると、必死に押し込めていたものが溢れそうになる。

ここで甘えたら、決壊してしまいそうだった。



「だ、大丈夫で……っ、くしゅっ!」



言い終わる前に、小さなくしゃみが出た。
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