第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「あの人は、小さな種をくれた。黒い、種みたいなもの。それは、千尋の『執』の種子だって」
「執の……しゅうじ?」
聞き慣れない言葉。
それは、『Re:bloom』で売られている種とは違うのだろうか。
「飲めば、千尋の思いが分かるって。千尋が最後に何を感じたのか。何を恨んで、何を望んでいたのか」
親友を見殺しにして、罪悪感に押し潰されそうになっていた真澄。
そんな時に、千尋の未練だと言って種を差し出されたら。
真澄は、拒めなかったんだろう。
千尋への贖罪のつもりで、その種を受け入れてしまった。
真澄の心の弱さを。
後悔を。
全部利用して、あいつは真澄の中に呪いを植え付けたんだ。
「種を飲むと、聞こえたの。千尋の声が。千尋の痛みが。あの子が落ちていく時に見ていた空も、握りしめていた種の感触も、全部」
「毎日、毎日。何度も、何度も千尋の声が聞こえて……」
真澄の目から、また涙が落ちる。
「そのうち、千尋の痛みが、私の痛みになった。千尋の怒りが、私の怒りになった」
「千尋が復讐したいのか、私が復讐したいのか。もう、分からなくなったの」
それで、あの違和感か。
真澄の記憶がある。
真澄の声で話す。
なのに、その奥に別の感情が混じっている。
真澄自身の後悔と、千尋の執が、ぐちゃぐちゃに絡まっていたんだ。
「執の種子……」
そう呟いたの顔色が悪い。
その言葉に、心当たりがあるのだとすぐに分かった。
「、あんた何か知って――」
言いかけた、その一瞬だった。
私の視線がに向いた隙に、真澄は床に落ちていた『Re:bloom』の種を拾い上げて、屋上のフェンスへ向かっていた。
「真澄!? 何してんのよ!」
「来ないで! 野薔薇ちゃんっ!」
一歩、真澄が後ずさる。
背後には、錆びついたフェンス。
真澄の術式で歪んだ金網が、風に揺れていた。
「私も、還らなきゃ」
そう言って、真澄は握っていた『Re:bloom』の種を口元へ運んだ。