第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「でも、千尋だけが声をかけてくれた。お昼、一緒に食べようって。ノート見せてあげるって言ってくれて」
「千尋は、何でも持ってる子だった。頭もよくて、家もお金持ちで、綺麗で、明るくて。みんな千尋のことが好きだった。でも、同じくらい、嫌ってる子たちもいたの」
よくあるパターンね。
いや、よくあってたまるか。
くだらない僻みと、勝手な悪意で追い出された、沙織ちゃんの顔が頭をよぎる。
「恵まれてる人間なら、何をしても傷つかないって思ってる馬鹿、どこにでもいるからね。それで? いじめを苦に自殺したってわけ?」
その瞬間、真澄の顔が強張った。
「違う。千尋は、自殺なんかじゃないっ!」
真澄は濡れた床に両手をついたまま、ぎゅっと拳を握りしめる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、私を睨み上げた。
「殺されたのよ……あいつらに、殺されたの」
「……殺されたって、どういうこと?」
水浸しの床を鳴らして、が真澄のすぐそばに膝をつく。
真澄は視線を地面に下ろして、また話し続けた。
「千尋へのいじめは千尋が学校を退学しても続いてたの。あの日……千尋は、あの子たちに駅から少し離れた廃ビルの屋上に呼び出されたの。私も、無理やり連れて行かれて」
「千尋、黒い種を持ってた。誰かからもらった、大切なお守りだからって……ずっと大事そうに握りしめてて」
……黒い種って。
さっき地面に落ちた『Re:bloom』の種に目がいく。
「あいつら、それを気味が悪いって笑って。その種を取り上げて下へ投げ捨てようとしたの」
「千尋、いつもはあいつらに何をされても言い返さなかったのに。あの時だけは、なぜかそれを守ろうとして……もみ合いになって……っ」
「バランスを崩して……そのまま、落ちて……私、すぐに救急車を呼ぼうとした。でも……あいつらが、私のスマホを奪い取って……っ」