第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「気持ちわりーんだよ。……真澄の言葉に、別の誰かの感情が混じってんのよ」
真澄は話をする時、もっと柔らかく笑う子だった。
理屈じゃない。
でも、私の中の全部が、目の前のこいつを『真澄ではない何か』だと叫んでいた。
すると、真澄の口元がゆっくりと吊り上がった。
「あはっ。呪術師ってすごいね。そこまでわかるんだ」
その言葉で、信じたくなかったことが現実になる。
目の前にいる真澄が、もうあの頃の真澄ではないことに。
「本物の真澄はどこ」
真澄の顔をしたそれは笑って、自分の胸に手を当てた。
「だからさっきから言ってるじゃない。私は真澄だよ。でも、千尋の種が芽を出した……って言った方がいいのかな」
金槌の柄を、ぎりっと強く握り込む。
くっそ。
さっきから意味わかんねーことばっか言いやがって。
脳を移植して、他人の体を乗っ取る呪詛師がいるらしい。
そんな最悪な術式の話は、聞いたことがあった。
でも、これがこいつ自身の術式だとしたら辻褄が合わない。
私の知る真澄は非術師。
こんなふうに、呪力を持ってること自体がおかしい。
(……ってことは、受肉体か?)
聞きたいことは、山ほどある。
けど、まず聞くべきことは――。
「……二人を殺した理由は?」
「還しただけだよ」
「……還した?」
「そう。あの子たちがしたことを、同じだけ」
風に煽られて、真澄の髪が頬に張りつく。
それでも、彼女は瞬き一つしなかった。
「同じ苦しみを。同じ恐怖を。同じ絶望を」
真澄の手が、フェンスの金網を掴む。
ギリッ、と硬い音が鳴った。