第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
真澄は、きょとんと目を瞬かせた。
「……ちょっと、冗談やめてよ。野薔薇ちゃんが普通じゃない力を持ってるのは、細井先生からちゃんを助けた時に見えたから」
「なら、私がどうやってあの子を受け止めたか知ってんの?」
「そ、それは……中庭で見て……」
「嘘ね。今日は追悼式で、授業はない。ここにいる生徒は、みんな礼拝堂にいた。中庭に集まってきたのは、私があの子を助けた後よ。
あんたは駆けつけたんじゃない。最初からここにいたのよ」
私は屋上のフェンスを顎で示した。
「特等席で、下を見下ろしてね」
あー、自分に呆れる。
こんな簡単なことに気づかないなんて。
いや、信じたくなかっただけかもしれない。
そう。
ずっと、どこかで感じていた。
この気持ち悪さ。
「私とはあんたが出した情報を、そのまま信じて動かされてたってわけね」
「……何の話?」
「細井よ。あいつは学校中が知るクズだった。犯人に仕立てるには、ちょうどいい。
準備室のメールも、『Re:bloom』の噂も、あいつの術式も。
全部、細井に辿り着くように置いてあった。
私たちが細井を追うように。細井を犯人だと思い込むように」
目の前の『真澄』を睨みつけると、真澄は困ったように眉を下げた。
「野薔薇ちゃん、変だよ。私は真澄だよ。私を疑うの?」
「じゃあ答えなさいよ。裏山で半分こしたアイス、何味だった?」
真澄は、少しだけ考えるように瞬きをした。
「……ソーダ味」
「ふみのランドセルの色は?」
「水色……似合ってたよね」
答えは合っている。
その声も。
その言葉も。
間違いなく、真澄が言ったものだった。
だからこそ、背筋が冷えた。