第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「細井のやつ、意外とやるわね」
「生徒を病院送りにした件は認めてるらしいんすけど、『Re:bloom』の件は否定してるんすよ……でも、細井先生の術式なら、五感や神経に干渉して、生きている人間の体内でも無理やり花を咲かせられるかもしれないって、硝子さんが」
新田ちゃんは手元のファイルに視線を落として、小さく息を吐いた。
「まあ、おそらくバックにいるやつに口止めされてて、しらを切っているだけだと思うっすよ」
「ふーん。……あ、そういえば頼んでた件は?」
私が尋ねると、新田ちゃんは「あー」と少しだけ視線を上げた。
「細井先生と付き合ってるのがバレて退学になった子っすね。調べたんすけど、付き合ってるのは本当だったみたいっす。でも、退学したのとそれは関係ないみたいっすよ」
「え? そうなの?」
「学校の記録上は、家庭の事情で自主退学になってます。ただ……」
「ただ?」
「その後、亡くなってるんすよ。自殺で」
「……はぁ?」
思わず、大きい声で聞き返してしまった。
「被害に遭った子たちとは特に接点が見つからないので、今回の事件とは直接関係ない可能性が高いって話っす。細井先生との噂だけが一人歩きしてたみたいっすね」
「……」
「状況的な証拠は、細井が犯人だって言ってますから」
新田ちゃんは、ファイルをトントンと揃えて結論づけた。
そう。
今回の事件の犯人は、細井だ。
状況も、動機も、証拠も。
すべてがあいつが犯人だと言っている。
(……でも、出来すぎじゃない?)
まるで最初から、こっちがそう思うように道を作られていたみたいで。
あまりにも綺麗に揃いすぎている。
そのことが、逆に気味が悪かった。
「どうかしたっすか?」
黙り込んだ私を見て、新田ちゃんが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「いや……別に」
私は首を横に振って、前を向いて歩き出した。
やめやめ。
考えすぎると、ロクなことにならない。
犯人は捕まった。
証拠も揃ってる。
も無事。
事件も食い止められた。
なら、もう終わり。
終わりよ。
そう自分に言い聞かせながら廊下を歩いていると、ポケットの中でスマホが短く震えた。
「……?」
立ち止まってスマホを確認すると、メッセージが一件届いていた。