第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「あれ?」
が手元の時計に視線を落として、不思議そうに首を傾げた。
「この時計、時間ズレてる……」
「落とした時に壊れたんじゃないの?」
「うーん。でもこれ、電波時計なんだよね。普通なら勝手に合うはずなんだけど……」
と一緒に文字盤をじっと見つめた、その時。
コンコン、と医務室の扉が軽く叩かれた。
「失礼しまーっす」
ひょっこりと顔を出したのは、補助監督の新田ちゃんだった。
「釘崎さん、さっきの任務の報告書なんすけど……少し不備があって、一緒に来てもらえないっすか?」
新田ちゃんが、申し訳なさそうに手元のファイルを揺らす。
私は小さくため息をついてから、椅子から立ち上がった。
「じゃあ、またね。後で虎杖たちも来るって言ってたわよ」
「うん、忙しいのにありがとね」
手を振るに軽く振り返して、私は新田ちゃんと一緒に医務室を出る。
廊下を歩き出しながら、私はふと気になったことを口にした。
「あれ? そういえば伊地知さんは?」
いつもなら、こういう細かい事務作業は伊地知さんが飛んでくるはずなんだけど。
私の疑問に、新田ちゃんはわずかに顔を引きつらせた。
「伊地知さんは……五条さんが暴走しないように取り調べに付き合ってるっす」
……あー、納得。
あの人、が絡むと周りが見えなくなるからな。
それに付き合わされる伊地知さんに、ちょっと同情してしまう。
「……伊地知さんも大変ね」
「はは……。でも、事情聴取、相当苦労してるって言ってたっすね」
「そうなの?」
思わず足を止めて、隣を歩く新田ちゃんを見る。
あの六眼に睨まれても、口を割らないなんて。