第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「あんた、騙されてたのにお人好しすぎ」
「えへへ……」
「まぁ、最後の一つは、細井がどこかに隠し持ってるんでしょ」
先生が直々に取り調べてるんだし、吐かせるのも時間の問題だろう。
「ま、すぐに吐くでしょ」
「そっか」
はミルクレープの最後の一口を食べてから、まっすぐ私を見た。
「でも、事件を食い止めることができてよかった」
「……」
「野薔薇ちゃんが助けてくれたおかげだよ。ありがとう」
そんなふうに、真っ直ぐにお礼を言われたら。
こっちの調子が狂ってしまうじゃない。
私は残っていたケーキを慌てて口に放り込んだ。
「……ふん。友達がピンチなら、助けるのが当たり前でしょ」
そう言うと、はさらにニコニコと笑った。
(……ほんと、調子狂うわね)
なんだか照れくさくなって、私は誤魔化すように自分のバッグをごそごそと探った。
「そうだ。あんた、あの時、時計落としたでしょ」
「えっ?」
「ほら。これ、あの体育館倉庫に落ちてたわよ」
バッグから取り出した腕時計を差し出すと、はぱちりと目を丸くした。
「あ、私の時計……! どこかで無くしちゃったと思ってたんだ」
は大事そうに両手で時計を受け取って、ほっと息を吐く。
「私が気づいたんじゃないわよ。真澄が拾ってくれたの」
「真澄ちゃんが? わー、お礼言わなきゃ」
事件の後、少し落ち着きを取り戻した真澄と話したことを思い出す。
「真澄も、にまた会いたがってたわよ」
「ほんとに?」
「ええ。今度、あの子と買い物に行く約束してるんだけど……」
私はそこで言葉を切って、を見た。
「あんたも、来る?」
「うん、行きたい!」
は表情を明るくして、大きく頷いた。
その顔を見て、少しだけ肩の力が抜ける。
今日のは、少し無理しているようにも見えたけれど。
まあ……あんなことがあったんだから、多少は仕方ないか。