第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「で、体の方は? もう大丈夫なの?」
フォークを動かしながら、さりげなく聞いてみる。
硝子さんからは、の症状には反転術式も効かないって聞いていた。
正直、昨日からずっと心配していたのだ。
すると、はフォークを持ったまま、ぴたりと動きを止めた。
「……う、うん。五条先生が……その……」
急に、の視線が泳ぎ始める。
「先生が?」
「ち、治療してくれて……」
もごもごと、口ごもるように言う。
「……治療って?」
私が聞き返した瞬間。
ぼんっと音がしそうな勢いで、の顔が真っ赤に染まった。
耳の先まで、茹でダコみたいになっている。
「えっ、と……! そのっ……」
ぱたぱたと手で顔を扇ぐようにして、が慌てふためく。
ちょっと待ちなさいよ。
なによ、その反応。
反転術式が効かない症状を、あの目隠しバカがどうやって『治療』したわけ?
絶対にろくでもない方法じゃない。
「それよりっ、細井先生はどうなったの!? あの女の子は、無事だった……?」
そう言って、がフォークの先で、意味もなくケーキの層をつついている。
話逸らしたわね、こいつ。
まあ、いいか。
これ以上この二人のバカップル事情を聞いても、こっちの精神が削られるだけだし。
「細井なら、五条先生が直々に取り調べしてるらしいわよ」
「えっ、そうなの!?」
「あんたのこともあったからでしょ」
私は残っていたミルクレープをフォークで切って、口に運ぶ。
「あと、狙われてたあの子の体内から、種は見つからなかったわ」
「……見つからなかった?」
「そう。だから、細井が購入していたっていう三つの種のうち、一つはまだどこにあるか見つかってない状態ってわけ」
「そっか。でも、あの子はもう安心だね」
ほっとしたように、が目尻を下げる。
ほんと、呆れる。
騙されて、あんな目に遭ったっていうのに。
自分のことより、まずは他人の心配だなんて。