第29章 川品中央総合病院
安室「椛さん、俺を見て…」
安室の言葉に渋々、ゆっくりと顔を右に向ける。
まだ口元は片手で覆ってはいるが、赤らんだ顔に、潤んだ目で安室を見つめる彼女の姿があった。
安室(全くこの人は…)
安室「他の男を思い出して、そんな顔をするなんて酷いじゃないですか。」
椛「他の男って言っても…
安室さんの大切な親友でしょう?」
安室「親友は親友だけど、男は男だろ。」
彼の言わんとしている事はもちろん頭では分かっているが…
あんな話を聞かされて…
こればかりはもうどうしようも出来ない。
安室「僕はこんなにも、貴方の事しか見ていないというのに…。」
椛「私だって今はそうだよ?
ヒロ君の事は…
もちろん覚えているし、安室さんも聞いて知ってると思うけど、当時は凄く好きだったけど…
大切な思い出である事は変わらないけど、もう何年も前の事だし、安室さんが思っているような負の感情は無いよ。」
安室(そんな事、言われなくても充分分かっている…
分かっているが…)
頭で理解していても、愛しい彼女が、他の男を想って顔を赤らめている姿は喜ばしいことでは無い。
既に亡くなっているとはいえ、大切な親友であった事は間違いないし、今でももちろん大事に思っている。