第25章 懐玉
「そもそもさぁ、"帳"ってそこまで必要?」
教室に戻るや否や、悟は椅子に座って文句を垂れる。
「別にパンピーに見られたってよくねぇ?呪霊も呪術も見えねぇんだし」
「駄目に決まってるだろ。呪霊の発生を抑制するのは、何より人々の心の平穏だ」
目に見えないモノを人は恐れる。
見えなければ何をされるかわからないから。
理解の範疇を超える恐怖は人々の心を蝕み、呪いとして生まれる。
「そのためにも目に見えない脅威は極力、秘匿にしなければならないのさ。それだけじゃない」
「わかったわかった」
私の言葉を遮る悟の顔は心底面倒な顔をしていた。
まるで自分の意見が通らずに拗ねる子供みたいだ。
「弱い奴等に気を遣うのは疲れるよ、ホント」
「"弱者生存"。それがあるべき社会の姿さ。弱きを助け強きを挫く」
呪術師がなぜいるのか。
なぜ呪霊を祓うのか。
考えればとても簡単な事。
「いいかい、悟。呪術は非術師を守るためにある」
その為の呪術。
その為の呪術師。
そうだろう?
「それ、正論?」
非術師への配慮を厭う悟に、非術師を守るその意味をわかってもらいたくて諭したつもりだったが、どうやら伝わらなかったらしい。
「俺、正論嫌いなんだよね」
サングラスの奥から覗く真っ青な瞳が厭らしく細められた。
正しい事が嫌いとか、天邪鬼を通り越してもはや我儘だ。