第14章 明日
その時、虎杖君が勢いよく部屋の扉を開けた。
「七海先生ー!!」
そのあまりの声のでかさに夏油さんも私も驚いて肩を竦める。
夏油さんに至っては小さく「ひっ」と悲鳴を上げていた。
たぶん本人は気づいていない。
あんなに強気なのにビビり屋なのか。
視線を夏油さんから虎杖君に移すと、彼は満面の笑みを浮かべて。
「気を付けてね」
と、声をかけた。
その後ろから伊地知君も顔を出していて、困ったように笑ってはいたが、どこか嬉しそうだ。
人の事をちゃんと心配のできる子達。
少し嬉しく思うのは、そういう言葉を随分と聞いていないからだろう。
呪術師になりたてだからなのか、それとも虎杖君の人柄なのか。
たぶん、そのどちらもか。
彼は夏油さんの手を引いて部屋を出ようとする。
その後ろ姿に私は声をかけた。
「私は教職ではないので、先生はやめてください」
「じゃあ……ナナミン……」
「ひっぱたきますよ」
「あっはは!!ナナミンだって!!ピクミンみたい!!」
「夏油さん、貴女まで……」
束の間のひと時。
ナナミン、とそう呼ぶのは彼だけでしょう。
しかも夏油さんまで声をだして笑っている。
だけど、悪くない。
「気をつけろよ」
「はい、夏油さんもお気をつけて」
そしてようやく彼らは、自分たちの任務を遂行しに部屋を出て行った。
その際、夏油さんが約束のような願いのような言霊のようなその言葉を私に投げた。
「死ぬんじゃねえぞ」
「……はい」
呪いとは違うけど、呪いに近いそれ。
少し間が開いてしまったのは、「絶対に死なない」と言い切れなかったから。
それでも頷いてしまった以上、私は何としても生きて帰らなければいけなくなってしまった。
誰もいなくなった部屋で。
私は一人息をつく。
「気張っていきましょう」
自分に言い聞かせるように、そう静かに呟いた。