第26章 事変
昔、まだ証券会社に勤めていた時、生き甲斐ややりがいなんてものは無縁だと思っていた。
適当に働いて適当に稼いで、そして物価の安い国でのんびりと暮らす。
そんな平凡な日常を夢見ていた。
呪術師はクソだと逃げて、逃げて、逃げて。
精神的にも肉体的にも疲れて。
だからと言って、一般企業に勤めたところでその疲労は変わらなくて。
ああ、私は一体何をやっているのだろうか。
あの時の私は迷子になっていた。
自分で自分の心を殺していた。
忘れたふりをしていた。
そんな時に、そんなどうしようもなくなってしまった私に彼女は「ありがとう」と言ってくれた。
たった一言。
どこにでも溢れているその言葉に。
傷付いた心臓に雫が落ちて、僅かに死んでいたはずの"何か"が動いた。
生き甲斐ややりがいなどというものには無縁の人間だと思っていた。
適当に働いて適当に稼いで、物価の安い国で人生を謳歌する。
そんな平凡な日常を夢見ていた。
呪術師に戻ったのは彼女の言葉に、その言葉を私がずっと求めていたということに気づかされたからだ。
労働はクソだ、呪術師はクソだ。
でも同じクソなら、同じクソでも、適性のある方を、合理的な方を。
私に人を殺す適正はない。
だが、人を助ける適正はある。
自分で言うのもなんですが……。
それが世の中からどんな風にみられるのか、どんな判断をされるのかは知らない。
人を助けるために改造された人間を殺す。
矛盾していると思う。
だが、それを悪と呼ぶのか正義と呼ぶのか、それとも呪いと呼ぶのか。
それを決めるのは、選ぶのはきっと私自身だ。
この力を才能と呼ぶのか呪いと呼ぶのか、それを選択するのも私自身。
今ままの人生に悔いることのないように、今の私にできる精一杯のことを。