攫ってほしいと頼んでも ♔setters♔ ‐HQ‐
第1章 幼馴染みは森の中で姫を見つけた
「それで見惚れてしばらく動けなくなってたってところかな」
面白おかしそうに言う及川先輩を見てると糸が解れるようにスーッと心が和らいでいく
『見てたのは本当だけど、見惚れてません!』
「ウッソだ〜俺の事めっちゃうっとりとして見てたじゃんか、多分」
『あ!多分って言った!
見てないくせにテキトーなこと言わないで下さい』
「ふんっ、別れたらそーいう事も素直に言ってくれなくなる訳?
くるみは冷たいなー」
『付き合ってたときもそんな事言った覚えは………なかったからないです!!』
「いや今の間何?!心当たりあったんだよね?!」
何をそんなに深刻に受け止めてたんだろう
及川先輩は及川先輩のままじゃないか
もし変化を感じてたとしたら変わってたのは私の方だ
「そーいえばさ、トビオちゃんと付き合ってんの?」
ドキッ
分かりやすく胸の中に何かがぶつかった音がした
なんで、影山が出てくるの?
付き合ってないと否定しようと口を開いたときだった
「ま、遅かれ早かれお前ら二人はくっつくと思ってたけどね」
「俺にもカノジョいるから変な気遣わなくていいからさ」
取り繕っているようには見えない
いつもの軽口で何気なく言いのける先輩
゛そうですか、相変わらずですね
最初から気遣うつもりありませんけど! ゛
くらいの憎まれ口を叩きたかったのに思うように口が開かない
一言でも声を出したら目から何かが込み上げそうだった
イヤだ負けたくない
何か喋らないと、だってそれじゃ私…
「別に俺たち付き合ってないです」
『!』
かげやま…?
気付いた時には影山が私の横に立っていて、その横顔は分かりやすく不機嫌そうだった
「へーなーんだぁ
けどそんな悠長にしてたらすぐ捕られちゃうよ?」
「及川さん、今カノジョいるって言ってましたよね」
「まさか俺じゃないよ、そこら辺の連中にってこと」
「及川さんが相手じゃないなら全然余裕です」
「飛雄のくせに言うじゃん」
な、なんか不穏な空気が流れてる…??
呆気に取られてたけど止めたほうがいいかも
『あ、あのっ…』
「大体及川さんの方こそ余裕ないんじゃないですか」
「はぁ?どういう意味だよ」
「コイツのこと俺が貰ってもいいんですかって事です」