第11章 幸村の影武者に怖いものなんてないさ
幸村は見ることなく世を去った忍を憐れむ。この無害そうな少女が恍惚とした表情で頬張る菓子。
毒と知っても思わず口にしてしまう気持ちもわからぬことがない。
「恐ろしいな。それでうめは、毒を得たのか」
やはり少し引き気味にうめに目を向ける幸村。
転がりついた先で茶を飲みほしたうめが元気よく立ち上がる。
「むー、毒なんて全然良くないんです。昨日のうめはそのせいで大変だったんですから」
団子のような頬を膨らまして、幸村との距離を詰める。
「だなー。俺様もまさかだよ。まつさんのとこでそんなになるとは思ってなくて」
「まつさん?」
佐助が苦々しく呟いた言葉を幸村が繰り返す。
「前田の旦那の嫁さん」
「あの破廉恥夫婦か」
前田の旦那--佐助がそう呼ぶのは、加賀藩の藩主、前田利家だ。よく言えば動きやすい装備に槍使いと幸村との共通点は多い。大きく異なるのは戦場に妻同伴ということ。
「そこは破廉恥なんだね」
「戦場であのような……手を」
「手を繋ぐくらいで破廉恥って。そんなんで真田の血が繋げるかなあ」
「お、お主! 明るいうちからなんという……」
「暗くなればいいの? って冗談だよ」
「うっ、ごほん! ……それでまつ殿とうめの怪我がどう関係するのでござろう。まつ殿がお主のようにうめを虐めるとは思わぬが」
利家にしろ、まつにしろ、面倒見が良く、敵であるとはいえこのような小動物になにかするとは到底考えられなかった。むしろ進んで食事など差し出しそうなものだ。
「うめ、もっとちゃんと幸村様のお役に立ちたくって。まつさまに修行をつけてもらったのです」
「その怪我は修行の末か」
名誉挽回とばかりにうめが目を輝かせ、首をぶんぶんと何度も頷く。
「まつ殿といえば、太郎丸殿か」
鴨居付近に視線を這わせていた幸村は、思い当たったとばかりに声を漏らした。まつが使役する動物は様々だが、まず名を上げるなら太郎丸こと鷹だ。佐助の大鳥を羨ましがっていたうめのこと鷹の扱いを習おうというのなら納得もできる。
「いえ、太郎丸ちゃんが原因ではありません」
悲しそうにうめが首を振る。
鷹ではないとすれば次は。