第11章 幸村の影武者に怖いものなんてないさ
「次郎丸殿の突進はなかなかでござろう」
次郎丸ことうりぼうは、鼻を鳴らしてまつ足元に付きまとう様は可愛らしくもあるが、いざ戦闘となれば、敵に向かって一直線。まだ成長段階だということを感じさせぬ猛烈な迫力で地を駆け抜ける。
「いえ、次郎丸ちゃんでもございません」
「ならば四郎丸殿か……それは、なんと」
「いえ、それも……」
「まさか! 五郎丸殿?」
狼、熊と名をあげると、青い顔を隠しもせずにぶんぶんと首を振る。
勢い止まらぬ長い髪が自身の頬を叩いて、涙を浮かべながらうめが訴える。
「めっそうもございません。うめはその……三郎丸ちゃんに……」
「さぶろうまる……どの?」
一、二とくれば、三がいてもおかしくはない。
だが、幸村にはとんとその三が思い出せなかった。数の大きさは力の強さを表している……と想像できる。鷹、猪より強く、狼、熊より弱い生き物。
何度か対峙したことがあるが、と唸りをあげる幸村の肩に佐助が手をかけた。
「モグラだね」
「モグラ……」
ずんぐりとした体をふさふさとした毛並みが覆う。土の中に住むせいか手足の爪は鋭い。しかし、その体はうめの草鞋ほどにしかない。
「攻撃されたことはないな」
「あー、いきなり土から出てくるあの技」
佐助の助け舟に幸村は思い出した。三郎丸の特技はその急に地面から飛び出すことによる敵の足止めだ。もし踏んでしまったとしたら、その夜は罪悪感で眠りにつけないかもしれない。
「あの突飛な動きは確かに……強力な技ともいえなくはないが」
「だって、だってね! いきなり出てくるから踏みそうになって、転んじゃって」
「で、血の匂いに当てられた動物たちにボコボコにされたと」
うめがメソメソと声をあげながら、目の辺りに手を当てる。
本当に泣いてなどいないことがわかっている男二人はそれを綺麗に無視する。
「うめの血の匂いを嗅ぐと動物が滾るということか?」
「そうそう。理性も痛みも全部吹き飛ばす超超超強力な興奮剤ってやつ。動物には人間も含むからホント手に負えないよ」
「利家さまが身を挺してくれねば、うめはここにはいなかったのかもしれません」
最後に突撃してきた五郎丸は、さすがの佐助にも捌ききれず、やむなく利家に犠牲になってもらったのだ。