第11章 幸村の影武者に怖いものなんてないさ
こちらを向いていた耳に大音量を流し込んでやる。
薄く目を開けたうめが佐助を認識するとふにゃりと表情を崩す。
「……んふぅ。さすけ、うめあんこのお団子ねー」
「起きてても寝言かよ!」
一瞬、表情を失った佐助だったが、眉をあげて怒鳴りを返す。
起きていたら寝言ではないだろうという至極真っ当な幸村の突っ込みにも耳を貸さず、ふっくらとしたうめの頬を摘まむ。
できたての団子よりも柔らかそれを、これでもかというほど伸ばす。
「ひたいっ! ひしゃいって! なんで怒ってるのー!」
佐助の腕に手を回して必死の抵抗をするが、佐助はそれらを無視してそのまま幸村から引きずり下ろした。
重りを失くした幸村は、起き上がって、少しだけうめを気にした素振りを見せたが、結局は甘味の魔力に負けてしまった。
戦場での槍のごとく両手に団子串を掴んで、ひとつをうめに向ける。
「うめ、起きたのなら、お主もどうだ?」
「幸村さまぁ。うめあんこのお団子食べますぅ」
あざとさを隠すこともなく、甘味に負けず劣らず甘い声をあげる少女に佐助が舌打ちする。
頬から外した腕でうめの奥襟を容赦なく掴み上げた。
「ぐえっ」
そのまま佐助は自分の方に引き寄せた。
「あんたは! 止血ちゃんとしたんでしょうね!」
「したよ、したした。海六にちゃんとしてもらったよ」
ぐるぐる巻きになった己が腕を持ち上げてみせるうめ。
子供が適当に巻き付けたような布に目を留めて佐助がうなずく。
「なら、良し」
許しの出たうめが幸村の隣に滑り込む。
幸村はそちらを一瞥することもなく、やや呆れた表情を佐助に向ける。
「お主、随分と過保護ではないか」
うめとは逆の位置に座り込んだ佐助が主の口元を布でぬぐう。
童子のような姿を見止められてバツが悪そうに顔を背ける主にくすりと笑いかける。
「過保護じゃなくて保身です。忍びの血には毒があるって教えたでしょ」
「うめに毒があるのか」
「こいつのはガチでヤバい。毒どころか猛毒だ」
きょとんとした幸村は、団子を口に頬張ったままうめを見つめる。
主の視線を浴びたうめもまた団子を口に頬張ったまま潤んだ瞳で見つめ返す。