第10章 お風呂に入ろう
短い袖に手を通して、止まる。丁寧に洗われているが、古い羽織だ。糸がはみ出たところに指を這わせれば、ヘタクソに繕われた跡にたどり着く。この青い羽織はたしかに政宗の物で間違いない。ただしこれは。
「宗時!」
羽織を渡した本人を呼ぶが、いたはずの気配がない。
「おいっ! 宗時いないのか!」
小屋の外に飛び出し、さらに叫ぶ。
「宗時!」
「なんだよ。デカい声出して……」
岩陰から出てきたのは、手拭いで申し訳程度に体を隠す幼馴染。
飛びつくようにむき出しの肩に手をかける。
「アンタ今どこにいた!」
「どこにって? お前がたまにはひとりで入りたいって言うから別のとこで」
「誰か見なかったか?! 女……いや、男でもいい!」
「いや、あん? お前以外特に。武田の忍びはいんのかもしんねえけど」
辺りを見回すが、政宗と宗時以外に気配はない。温泉に案内した忍びは離れて警備をするからごゆっくりとここに着いてからは全く姿を見せない。そんなことは政宗もわかってはいるだろうに慌てた様子で宗時の腕を引く。
「Shit! おい、行くぞ!」
「はぁ? 一体どうしたっての?」
「あの女がいるんだよ!」
「あの女?」
「この羽織見ろよ!」
「お前のだな。随分と傷んでるけど? どうしたの?」
政宗は羽織を引き、宗時にわかるように繕いを見せつける。いつだったか幸村目当てに上田に来た際に鉄砲水に巻き込まれた。その時に共に流された女に持っていかれた羽織だと短く説明する。
そんなこともあったかとそれは理解できたものの、今政宗が着ているのかわからず疑問符を浮かべる宗時。
「まだそう遠くには行ってないだろ! とにかく来い!」
「えっ、あっ!? ちょっと待ってよ! 着物! せめて下帯だけでも」
しっかりとは言えないがそれなりに着こんでいる政宗はよいが、宗時は生まれたままの姿。このまま屋敷に戻れば、お気に入りのふくどころか忍びにすら遠巻きに見られること違いなしだ。下半身を隠しながらもじもじとしていると、苛々を隠す気のない男の怒声が追い打ちをかける。
「知るか! とっとと来い!」
裸のままうろたえる幼馴染に舌打ちすると、小屋に駆け戻り、目についた着物を投げつけた。