• テキストサイズ

【戦国BSR】幸村の影武者の非日常的な日常集

第10章 お風呂に入ろう


落とし穴に落とされた政宗は当然の如く、幸村に詰め寄った。
続きを促す政宗を止めたのは、いつもいつも邪魔に入る忍び。慇懃無礼丸出しの態度で、お詫びにと武田が誇る温泉をしきりに勧めてきたのだ。あの忍びが善意でこちらに提案するとは微塵も思わなかったが、上田から休むことなく戻ってきた幸村にも疲労の色が見えたため、政宗も矛を収めざるを得なかった。もちろん再戦の約束はさせた。

左手で湯をすくい、肩にかけてはまた息を吐く。湯殿に流れる川は、武田信玄が引き入れたという。道場といい、信玄の土木技術には目を見張るものがある。
一見すると、ただ岩を並べてあるだけに見えるが、大小組み合わされたそれらは、この位置から眺めれば自然の細工だ。周りに植わっているのは、楓だろう。秋になれば赤が水面に映り、見渡す限りの美しい紅葉に包まれることが想像できる。

「武田落としたら、慰安がてら来るのも悪くねえな」

側近の額に刻まれた深い皺もこの湯に浸かれば伸びるかもしれねえと、喉の奥でくつくつと笑う。ぽたりとこめかみから汗が湯に零れる。

「アイツに背中流させるのもいいな」

頭に浮かぶのは、幸村に似た少年の姿。得意げに挑む顔、怯えて青ざめる顔。本当に見ていて飽きない少年だった。将棋はできるだろうか。歌はどうか。舞はできるだろうか。幸村のことだから雅な趣味は一切教えていないだろう。手合わせで見せたあの軽やかな動きならすぐにでも美しく舞ってくれるのではないか。

「出るか」

立ち上がり、頭にのせていた手拭いを肩にかければ、温まった体からは湯気が立ち上る。
入ってきた時とは異なり、バシャバシャと音を立てて湯溜まりを出た。
着替え場所として建てられた簡易な小屋の中、畳んでおいた着物を広げて袖を通す。立場上はそば仕えが手伝うものだが、戦場ではそんな甘ったれたことも言っていられない。自身で着替えを行うのも慣れたものだ。

「湯冷めするから、これも着ときなよ」

帯を結んだあたりで、羽織を手渡される。

「あぁ、気が利くじゃねえか」
/ 99ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp