第10章 お風呂に入ろう
「お言葉ですが、小助は某の大事な忍びゆえ、物呼ばわりなど以ての外!」
「オレに負けて取られるのが嫌なのか」
呆気に取られていた幸村も幼少から共にいる家族のような忍びのこと、これ以上勝手をさせるかと口を挟むが、政宗も盟主として各地の主と交渉を行っているわけではない。主張をすり替えての挑発に幸村は口をへの字にして堪える。しかし、堪えない従者が花を飛ばさんばかりの笑みをこぼす。別の男の腕の中でうっとりと主を舐めるように眺める。
「幸村さま、今の『大事』のとこもう一回」
政宗はその白い首に指を食いこませ無理やりに小助の顔を自分に向ける。思い通りになってたまるかと小助もギチギチと音を立てるのではないかと思うほど強く抵抗するが、六爪を操る力の方が強い。
「ねえねえ、真田のあんちゃん」
「勝ち負けで済ませる話ではありませぬ」
「小助君って男の子?」
「Ah~、知らねえな~。悔しかったら勝って取り戻してみな!」
「取るも取られるも、それは某の忍びでござる!」
「それそれうるせえな!」
「幸村さまあぁーっ!!!」
渋滞した会話は脈絡も終わりも見えない。柱に潜む影は、天井から不自然に垂れる紐を手繰り寄せ、力の限り引いた。
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「おー、痛ちちっ……」
ところ変わって、湯煙が立ち込める中、岩に手をかけ慎重に足を沈める。
やや黒みを帯びた透明の湯は適温よりはやや高いが、周囲の空気で冷えた体にはちょうど良い。足を折り、胸まで湯に浸かって長く息をついた。
「Shit! 忍びめ。久々の真田とのBattleを邪魔しやがって」
幸村の小姓を巡っての言い争いが過熱し、いよいよ手合わせでというところで足元の床がぱっかりと開いた。古典的な落とし穴。常時ならそのようなものに引っかかる政宗ではなかったが、関心が逸れ過ぎていた。足元が消えて状況を把握したのでは遅い。腕の中の景品だけもと抱え込もうとすれば、向こうは慣れたもの。あの一瞬で抜け出して、あろうことか政宗を踏み台に一人上まで逃れてみせた。一人というのは語弊があるか。ちゃんと自身の主に縄をかけて救ってまでいた。落ちたのは、政宗と宗時。
「しっかし、オッサンもなかなかいい趣味してんじゃねえか」
背中を岩に預け、長い手足を伸ばしても野天の風呂はまだまだ広い。