第10章 お風呂に入ろう
「なんでお前までそんな感じなわけ!?」
表情こそcoolだが、こめかみには青筋。その背景には、今にも降り出しそうな曇天の重さのような空気が滲み出ている。
「アンタ、オレの戦利品に何してやがるんだ?」
長い脚は幸村を追い越し、つかつかと速足で宗時を追い詰め、その太い腕の中でぐったりとうなだれる小助を、がつっと奪い取る。童がお気に入りの人形を持つかのように背中から腕を回して、満足気な表情で抱え込む。
「戦利品?」
言葉を発したのは腕の中の重りをもっていかれた張本人だったが、怪訝そうに眉を寄せたのは、幸村だった。
「真田に勝ったらこいつをもらい受けるんだよ」
「政宗殿! そのようなこと某は一言も!」
両腕を勢いよく振り下ろし、事前に取り決めのない勝手極まる発言に幸村が嚙みつくが、当の本人はどこ吹く風。
「いいだろ? 首がとれねえんだ。そんくらいの緊張感はEssenceだろ?」
「えっせんす? は、分かりかねるでござるが」
南蛮語にたじろぎながらも、不満の表情を見せる。
幸村が取り戻そうと腕を掴もうとすれば、自然な動作で政宗がひょいと交わす。口笛でも吹きそうなほど勝ち誇ったかのように政宗はとぼけてみせた。
「Ah? なんだ? アンタが勝った時の品か? そんなこと万に一つもねえけど、そのボンクラでどうだ」
これには的外れな提案はされた方でなく、品物の方から苦言の声が漏れる。
見た目は丸きり大男だが、雰囲気と裏声は得意に捨てられる遊女のようだ。床に斜めに足を崩して、よよよ、と科を作って涙をぬぐう真似をする。
「酷い……。俺たちうまくやってたんじゃないかよ」
「オレのモノに手出しといて、よく言うぜ」
「手って、確かに小助君はかわいいけど~俺は女の子の方が~ってあれ? 小助君って男の子だよね?」
誰に言うともなく宗時が呟く。小助を抱えた際に不可抗力で体に触れたが、成長期を前にした薄い体は硬く、少年のもので間違いない。悪友が昨日の少女と同一人物と言うからにはそうだろうが、どちらが本来の姿か、はたまた両方が偽りの姿か。