第10章 お風呂に入ろう
しかしこの男。何を考えているのか、顔がでろんっと崩れる。飲みの席でよく見かける表情だ。これはすぐ近くの爆音よりも危険と即座に判断した小助はさっと手を放し、一歩引こうとするが、それを阻止するようにガシッと両肩をつかみ向き直される。
「ねえねえ、小助君さー、昨日の子なんだよね? ってことはふくちゃんと仲良いよね? 俺、彼女とちょっとお話したいんだけど」
のべーっとした話し方をする常時からは考えられないほどの早口で小助を責める。
その間も建物の揺れは大きくなり、バンッと壁にぶつかる音、バシッと柱を蹴り飛ばす物騒な音と雄たけびが続く。
「今その話している場合ですか!」
「俺にとっては一大事!」
「そういう話は後で」
小助が肩に食い込む指を外そうと手をかけるが、びくともしない。それどころか段々顔が近づいてくる。
「ちょっと、ちょっとでいいから!」
ぶんぶんと小助の肩を揺らす。自身の怪力を自覚していないのか小柄な体はなすがままだ。徐々に小助の顔色が悪くなる。
「やめてよぉ……お館さまの道場が……その前に気持ち悪い……」
「あっ、ごめん、ごめん」
首が座らない様子の小助に、男がやっと気づき手が止まった。ぐったりと力が抜け人形のように崩れ落ちる小助を抱き上げる。
「大丈夫? あー、でも、できれば女の子の方で……」
ビュンッ
流星のごとく飛ぶ槍が台詞を遮った。
「っぶな!!!」
尻もちついて避けた宗時の周りを避けきれなかった彼の髪が散る。
槍は壁を半分ほど突き破り、室内に残された柄は勢いで揺れている。
「壁が……壁に穴が……」
「小助君ってば、今は俺の心配するとこじゃないの!」
「原田殿」
刺さったままの槍を凝視する宗時の腹に、地を這うような低い声が追い打ちをかける。
「お館様が造られた神聖な道場で。あまつさえ、真剣勝負の最中に何を為されておいでか」
ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる真田幸村。彼の周りだけ陽炎のようなものが揺らめいて見える。常のとおりの丁寧な言葉のはずが、謎の迫力に宗時は唾を飲み込んだ。
「宗時」
幸村の後方から名を呼んだのは幼馴染。
この状況をなんとかしてくれるのでは、と期待を込めて後方に目をやるが。
「梵」
政宗を見て固まる宗時。