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思いつき短編や長編の番外編など

第11章 Vivit Color@忍足侑士 ❦


はじめは、自分が見合いなんや、と思っとった。

初期臨床研修が終わて、医療研究所への正式な所属が決まった夏。
出産で里帰りしとった姉ちゃんがおる実家に帰ったら、オトンとオカンが持ち出してきた白い大きな封筒に(まさか)とは思うた。

姪っ子の出生記念の写真でありますように、と祈りながら開けば、しっかり期待を裏切られ「まさか」通りの「お見合い写真」に頭を抱えて溜息をついた。


「恵里奈に聞いたで。
 彼女と別れたらしいな」

オトンからジロッ、と視線を向けた姉ちゃんは、何食わぬ顔で姪っ子のおしめを変えに別室に行った。

「結婚するもんやと思っとんたんになぁ」

オトンの隣でため息をついたオカンに、しゃあないやろ、とそれとなく閉じた写真を押し返す。

「向こうの地元で暮らさなあかん言われたかて、診療所も無い九州の孤島でどないせぇ言うんや」

年末に父親が脳卒中で倒れ、急きょ帰省した恋人から来た連絡は、東京には戻れない、という内容。
父と同じ医学の道を選んだ自分に、ゆっくりと、父親の症状と家族の現状を話す彼女の言葉から「父親を診てほしい」という思考は汲み取れたが、「わかった」と、現在も勤務する医療研究所に辞表を出すまでの気持ちは無かった。


そちらにはいけない、とはっきりとは伝えられず、日に日にメッセージへの返信が遅くなり、勤務明けに見た携帯に残る不在着信にも折り返さなくなった春。

交際が続いているのか既に怪しくなった薄紅色の桜の木が鮮やかな新緑となった頃。
前触れも無く送られてきたメッセージは「部屋の合鍵、持ってるよね?返して」。

いつも絵文字やイラストをつけて送ってくる彼女から、不動産屋の住所とともに、はじめて、文字だけが届いた。

キーホルダーを外した鍵を不動産屋に送って数カ月が経った頃。
偶然近くを通りかかった彼女のアパートの部屋には、既に新しい入居者がいた。

 契約、更新する?

夏にそう言っていたのを思い出したのが、去年の秋。

今年の10月15日。30歳の誕生日。
長文で、1年の感謝とこれからの自分の幸せを祈るバースデーメッセージが、12年の時を経て途絶えた。

それから親密になった異性はおらず、姉は出産し、同い年の従兄弟や中高の同級生も結婚した。

周囲からの声をなあなあにごまかしながら過ごしてきた中で、突如降り落ちてきた見合い話だった。

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