第11章 Vivit Color@忍足侑士 ❦
当時、父のツテで勤務していた製薬会社の総務。
たくさんを話す人では無いが、不思議と一緒にいると話題が途切れることが無く、趣味の読書や映画鑑賞の好みが近かったり、まったくの素人であるテニスの事も彼から聞くととても楽しく、時折、中高の同級生と休日にテニスコートに集まる彼について行ったりした。
交際を始め、いろんなところに二人で出かけた。
一番多かったのは、映画だった。書店、演劇場、美術館や名所での企画展にもよく行った。
一年を前に迎えた、彼と出会って最初の誕生日。
予約してくれたレストランではバースデープレートが出てきて、プレゼントのイヤリングは今でも大切にジュエリーボックスにある。
帰り、家まで送ってくれた車内で差し出されたもう一つの箱には指輪。
籍、入れよか
はい、と答え、最初に迎えた1年目の記念日に入籍した。
入籍に伴う各方面への手続きや結婚式の準備。
多忙な彼とすべてを一緒に、というわけにはいかなかったが、披露宴で結婚を祝ってくれた彼の中学や高校からの友人たちからの祝福に、彼と結婚してよかったと心から思った。
「侑士さん」
「なんや?」
髪を撫でていた彼を見上げ、少し、背伸びをしてキスをした。
「珍しいやん」
「いやですか?」
「そう見えるか?」
今度は彼の方からキスをされ、シャツの胸を撫でる。
「あの、」
「ん?」
優しく抱き寄せてくれる腕に、身体を預ける。
「えっと、その...」
落ち着かない身体を、彼に擦り寄せる。
「しない、です、か...?」
口にすると、とんでもないことを言っている、と熱くなった顔を俯けた。
「そのっ、あのっさっき...触れてもらったから、かな?
えっと、ムズムズしてるって言うかっ!
ええっと、その...」
なんて言ったら、と彼の胸に顔を埋める。
いつもは、彼が『雰囲気』を作ってくれて、口にすることなく彼に任せて事は始まっていた。
(「抱いてほしい」なんて...)
はしたないことを言ってしまった、と彼の胸を押す。
「あの、やっぱり、なんでもないです」
ごめんなさい、と顔を上げるより早く担ぎ上げられ、侑士さんっ!?と呼びかけたが、視界に入れた彼の後頭部からは何も分かるはずがなかった。
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