第11章 Vivit Color@忍足侑士 ❦
「どうぞ」
ローテーブルに、湯気を立たせるコーヒーが入ったマグを置く。
ソファに腰掛け、両手で頭を抱える侑士の隣に座る。
シン、と静まり返るリビング。
普段からそう賑やかに話す夫で無いが、いつもの雰囲気では無く、えっと、と彼の膝に手をかける。
「誤解が解けて、よかったです」
「...紫雨は、優しすぎや」
はぁあ、と深くため息をついて俯いたまま、膝に置いた左手を掴まれた。
「澤田先輩は、俗に言う『女子校の王子様』のような方で、とても気さくでカラッとされているので、勘違いされることは、よくあるそうです。
お子さんを産まれてからも、時たまに、お父さんですか?と聞かれる、と」
ちなみにお子さんはお兄ちゃんと妹ちゃんです、と言った紫雨の薬指に嵌る揃いの指輪を撫でる。
「結婚式には、ちょうど妹ちゃんが臨月に入る頃だったので、参列は辞退なされて」
業務が多忙で、結婚を期に退職した紫雨に結婚式の準備のほとんどを押し付けるように任せっきりにしてしまい、ろくに彼女の交友関係を把握しきっていない自分を殴りたくなった。
「ふふ」
笑い声に視線を上げる。
「侑士さんも、嫉妬するんですね」
身を寄せ、そっと肩に乗った紫雨の頭を抱き寄せる。
「当たり前やろ」
ほんのりと甘い香りを放つ柔らかな髪に口づける。
「愛してんねんから」
「でも、嫉妬されるなんて、初めてな気がします」
「そないなこと、あらへんよ」
見上げた侑士と目が合う。
申し訳無さそうな表情の侑士に、ふふ、と少し体を預けた。
「私、言わなかったですか?
『男性とお付き合いどころか、ろくにお話もした事ない』って。ほら、顔合わせの時に、」
「見合いの場で、過去の異性関係をあけすけに言うもんちゃうやろ」
「それはそうですけど...」
叔父が持ち込んできたお見合い相手は、叔父が世話になっている病院の医師の息子だった。
大阪の医学家系に生まれ、中学から名門・氷帝学園に通い、氷帝大学の医学部を出て医学研究所に勤務しているという華やかな経歴に、怯えるように緊張しながら振袖姿で出向いた料亭。
臨床ではなく研究医をしているという4つ年上の彼は、お決まりの「あとは若い二人で」と放り出された料亭の庭園で、「お互い、苦労しますねぇ」とその落ち着いた声で苦笑いしていた。
