第23章 Amazing Grace
「俺、医学部で勉強したときに、反抗期がないのは異常だって習ったのに、自分がそうだったって気づけなかったんだ」
「習ったのかよ…」
呆れたような声に、思わず苦笑いをしてしまう。
俺ってなんて馬鹿なんだろうって。
「智の家に来てから、西島さんにも反抗期はあったのかって聞かれたんだ。それでも思い出せなかった」
「おまえなあ…」
声は呆れてるけど、車椅子を押す速度は緩やかで。
少しでも車椅子の上の俺に衝撃がこないように、あくまで優しかった。
だから安心して言葉を継ぐことができた。
「それくらい、親に支配されてたんだと思う」
それには返事はなかった。
「反抗しないのが当然だと思い込むほど、ね。俺の親が俺にしたのは、教育じゃなくて、支配だったんだと思う」
人の道から外れた、外道くらいに思ってたんじゃないかな。
そんな外道だからぞんざいに扱ってもいいって。
じゃなきゃ…あんなこと、できないと思う。
「…支配するって、親の狭い世界の中に閉じ込めることと同じだと思うんだ。で、俺はまんまと親の世界が常識だと思って…いや、思い込んで育った」
「まあ、そうなるだろうな」
「その結果、親の世界の外に出たときどうしたらいいかわからなくなってさ…俺が壊れたとしても」
ちょうど遊歩道を覆っていた木々が途切れた。
上を見上げると、真っ青な冬晴れの青空が広がっていた。
「…多分、構わなかったんだと思う」
自虐でもなんでもなく。
これが俺の親の…彼らの事実だったんだろうと思う。