第23章 Amazing Grace
恵比寿にある幼稚舎に通っている妹はどうしているだろう。
今日は運転手が迎えに行く予定だったのを思い出した。
心配することはない。
父はこの地震で怪我人や急病人がたくさん運ばれてくるだろうから、桜井総合病院の院長として忙しくしているに違いない。
母は病院の保育室に預けている乳児の弟を迎えに行って、家で俺達を待っているはずだ。
だから早く帰って、母さんを安心させないと──
そう思って帰った家は、もぬけの殻だった
『舞ちゃんと修ちゃんを連れて、葉山のお祖父様のところに行かれるそうです』
お手伝いの寿美子さんが、気の毒そうな顔をして俺に伝えてくれた。
その後は何を話したか、覚えていない。
ただ寿美子さんが湯を沸かし、温かい飲み物をカップに注いでそっと差し出してくれたことだけは覚えている。
その日は家族の誰も家に帰ってこなかったから、寿美子さんは家に泊まっていってくれた。
そこまで思い出すと、息苦しくなってきて。
唸り声が出そうになったから目を開けた。
地震はとっくに収まっていた。
部屋の中は静かで、色味のないモノトーンの世界。
そこには何も起きていないように見える。
誰も俺のこと、見放そうとしてない──
バクバクする心臓を落ち着けようと、ひとつ息を吐き出す。
そうだ。
誰も俺のこと傷つけようとなんかしてないんだ。