第21章 Psalm 121:1-3
「…随分余裕じゃねえか」
「なにが」
「笑ってられるシーンか?ってことだよ」
西島は意地悪く笑いながらこちらを見た。
「あんたが笑ってるからだろ」
「は?」
赤信号が見えてブレーキを踏み込んだ。
「あんたが笑ってるから、翔は今すぐどうこうすることはないってことだろ?」
西島の顔を見ると、複雑そうな表情でこっちを見てた。
「……全く。そういうとこだけは勘が鋭いんだな」
ボリボリと頭を掻くと、舌打ちをした。
「それ以外は勘が鈍いみたいに言うなよ」
「事実だろ?」
「う……」
「ほれ、青」
前を見ると信号は青になっていた。
前に停車していた車が動き出すと、ゆっくりとブレーキから足を外しアクセルを踏み込む。
「だがな、智」
「ん?」
「人の心は、簡単に壊れる」
言い切った西島の横顔は、確信に満ちていた。
そういえば雅紀が、西島はヤクザになる前は精神科医として腕が良かったんだと言っていたのを思い出した。
「壊れるって…」
心臓に悪い。
一瞬で油断していた気持ちがどっかにいってしまいそうだった。
「それは、翔はもう壊れてるってことか…?」
「いや…まだ。これから話を聞いてみないことにはわからないが…」
さっきと違って、今度は口ごもっている。
そんなに翔の状態はよくないんだろうか。
ガリガリに痩せてベランダで倒れていた姿を思い出すと、今更ながらゾッとした。