第7章 *File7.*諸伏 高明*
「それよりも、最後の三課のオトコの話は聞き捨てなりませんね」
「それは、雪乃の先輩として、か?」
「他に一体どんな理由があると?」
「だから、聞いてんのは俺だろーが。お前が質問を質問で返す時点で、十分怪しいんだよ」
「では、こう返答し直します。【其の疾き事、風の如く】と」
武田信玄氏が好んで用いた、孫子が説いた兵法【風林火山】の一つ。
山のように腰を据えてじっくり待つのも良しですが、風のように素早く行動するのもまた一つの手であると。
「あ?自分のことかよ?」
「いえ、君に贈る言葉ですよ。敢助君」
「チッ。今はそういうことにしといてやる」
不機嫌そうに顔を背けて、ビールを煽る。
「ん?何の話?」
「お前は知らなくていいんだよ」
「そういうことです」
「全く何時も変なトコで意見が一致するんだから」
「「……」」
上原さんの呆れた様子に、敢助君と視線を合わすと、同時に肩を竦めた。
「さて」
どうしましょうか?
結局あのまますっかり酔い潰れて眠ってしまった望月さんを、自宅まで送り届ける役目を誰にも譲らずに済んだ。までは良かったのですが。
普段の四人での食事や飲み会の後なら、しっかりと起きているので、そのまま彼女の家までお送りするのが定番。
では、今日は?
このまま家まで送り届けて鞄の中の鍵を取り出し、勝手に家の中に上がり込んで寝かせる。
若しくは、家に到着したら、無理矢理起こす。
こんなにも気持ち良さそうに眠っているのに?
無防備過ぎるところが望月さんらしいと言えばそうなのですが、年齢的にも職業的にももう少し警戒心は必要かと思いますよ?
きっと彼女自身は今、こんな状況だとは夢にも思っていないでしょうね。
「仕方ない、ですね」
助手席で暢気にすやすや眠る彼女の髪を一度軽く撫でると、そう独り言ちる。
それは私の本音なのか、否か?
考えるまでもなく、答えは私自身が一番分かっているでしょう?