第14章 鋼の錬金術師
その後、オレは自分の部屋に戻り、机の引き出しを開け、奥に閉まっていた一枚の手紙を取り出した。
1年前、あの軍人―――ロイ・マスタングから渡されたものだ。
国家錬金術師への推薦状。
これが何を意味をしているのか、わからないわけじゃない。
軍の命令には従わなければいけない。
人間兵器として、戦場に赴く可能性だってある。
鉛を飲み込んだみたいに腹の底が重くなって、手足の付け根がずきりと痛んだ。
自分の手で人を殺してしまうかもしれない。
人を殺してしまったら、アルもウィンリィもばっちゃんもきっと哀しむ。
だけど、だけどオレは―――……。
扉の向こう、アルの楽しそうな声が聞こえた。
そうだ。
覚悟、したじゃないか。
軍の狗に成り下がってでも、可能性があるのならすがるしかない。
オレ達が元の身体に戻る可能性が少しでもあるのなら。
「……よし」
覚悟を決め直し、オレはその日の内に東方司令部へ連絡を取った。
そして―――。
オレは、今、東方司令部の前にいる。
国家錬金術師になるために。
目の前には1年前と変わらない、中佐の姿があった。
「よう。中佐」
「君がもたもたしてる間に大佐になってしまったぞ」
厭味ったらしい言い方しやがって。
中佐……、大佐が「覚悟はできたのかね?」と聞いてきたからオレは犬の鳴き声をしてやった。
お望みとあらば尻尾でも振ってやる。
「随分と威勢のいい……」
「こうして噛みつくあたりまだ可愛げがあるじゃないか」
その時、大佐の後ろから女の人が現れた。
雪のように真っ白い肌のその人は、大佐や金髪の女の人よりも随分と若く見える。
「明後日には戻ってくる」
「行ってくるわね」
「はい。お気を付けて」
軽い会話を交わした後、オレは大佐と金髪の女の人―――ホークアイ中尉と共に中央へと向かった。
オレ達の姿が見えなくなるまで、その人はずっと敬礼をし続けていて、なぜかその姿がほんの少しだけ印象に残った。