第13章 エルヴィン 密かな遊戯
「しっかり者の君の意外な顔が見れて良かったよ また出たら呼びなさい」
微笑むエルヴィンに一瞬見とれていたアンナだが 「また出たら」の言葉に素早く反応した
「ハンジさんに今年も防虫剤を作ってもらわないと…
紅茶を淹れたら ハンジさんを起こしに行きますね!」
割れたティーカップをホウキで集め古新聞で包みゴミ箱に捨てると 別のティーカップに紅茶を淹れなおした
アンナは机の上に紅茶と小さなお皿を置いた お皿には竈の熱で温めたドライフルーツのたっぷり入ったスコーンを乗せている
「糖分は頭の栄養になりますから よかったら食べて下さいね」
「いつもすまないな…アンナの心づかいが嬉しいよ」
お皿を差し出したアンナの手にエルヴィンは自分の手をかさねてそっと握った
アンナの手がピクリと動いたがそのまま素直に握られている
エルヴィンがアンナの顔を見ると琥珀色の瞳が揺れて まぶた が少し色づいていた
こんなうぶな反応も可愛らしい…
少しの間エルヴィンの青い瞳とアンナの琥珀の瞳が見つめ合う
見つめたままエルヴィンは艶のある声で
「ありがとう――アンナ…」
と言ってから手を離し書類へと視線を戻した
「――いえ…このくらいの事しか出来ませんから……」
アンナがゆっくりと手をお皿から離してキッチンへと戻っていった
その後ろ姿を横目で見ながらエルヴィンの口もとが緩む
あと少しだろうか――
あの柔らかな体を感じた時あのまま抱きしめてアンナに好きだと伝えようかと思った
だが……「団長に告白する勇気が無い」とアンナが言っていたと ハンジがポロリともらした時から 密かな遊びを始めた
少しずつ 私の好意をアンナに伝える遊びだ
だいぶん分かりやすく伝えているのだがなかなか手強いな――
サインをした書類をアンナが記入もれがないか確認をして部屋を出ようとした
「今日の午後からはローゼ内の憲兵団の支部に行く 書類は先にリヴァイに回せる物は回しておいてくれ」
「はい分かりました」
「そう言えば…以前支部の近くにある 紅茶の専門店のブレンドにいい品があると言っていたな?」
「はい」
「ついでだ 時間があれば買ってこよう
商品名が分かるなら書いてくれないか?」