第13章 エルヴィン 密かな遊戯
団長室を合鍵で開ける前にアンナはノックをした
「アンナ・ランシェットです」
「入れ」
まだ朝の7時だというのに返事が返ってきた事にアンナは「やっぱり」と思った
ドアを開けると エルヴィンがジャケットをハンガーラックに掛けていた
「おはようございます 今日はお早いですね」
徹夜をしていた様子はないのでアンナはホッとした
「おはよう――君もずいぶん早いな」
「昨日の書類の量だと 団長は徹夜をするか早朝出勤になると思ったので 出勤される前に掃除をしようかと思ったのですが負けましたね…」
「そうか私の勝ち――なんだな」
ふっ とエルヴィンは微笑んだ
アンナは執務室にある小さなキッチンに入り火を付け お湯が沸く間に バケツに水を入れて窓や本棚を拭いていた
その間エルヴィンは机に座り 書類に目を通している
話をする事もなくお互いの仕事をするから 部屋の中は静かで ヤカンのお湯が沸騰した音が聞こえた
アンナがキッチンへと消えて紅茶を入れる音がする
「キャッ!」
ゴン!ガシャーン !パリーン!
珍しく騒がしい音がして エルヴィンはキッチンへと駆けつける
そこに慌てたアンナが飛び出してきてエルヴィンにぶつかりそのまま抱きついた
アンナの柔らかな胸の感触と温もりが薄いシャツごしにエルヴィンに伝わる
栗色のサラサラとした髪からはヘアオイルのシトラスの香りがふわりと鼻をくすぐった
エルヴィンのドキドキとは関係なくアンナは背中に回りしがみつく
「ゴ○が――出ました!!団長!助けて!!」
助けるにしても退治するにしてもしがみつかれたままではどうにも出来ない
「とりあえず離れてくれないか?」
「あっ――はい…」
アンナは背中から離れて執務室の応接セットのソファーまで逃げた
束ねた薪の上に置いてある古新聞を巻いてゴ○を始末して新聞に包みゴミ箱へと捨てた
「1匹だけだったか?」
「はい…―ありがとうございます…あと――ティーカップを割ってしまってすいませんでした
片付けは私がします…団長は仕事に戻られて下さい」
しょんぼりと うなだれるアンナが可愛らしくて つい頭に手を乗せてポンポンと優しく叩いた