第8章 ようこそ 料理団御一行様
『杏南 あそこに見えるコンクリートの壁は何かな?』
隣にいたエルヴィンさんが指を差した
『あれはダムです 下から見上げるとかなり迫力がありますよ 私は小学生の時によく1人で空想遊びをしてました』
『それはどんな空想かな?』
『コンクリートの壁の向こうには怖い敵がいて その敵を倒した先の壁の外には魔法使いの町があってキラキラした世界が広がってるんです だからダムの壁に向かって開門!って言って走るだけなんですけどね…』
微妙な沈黙が流れた…
この遊び 実は友達からは不評で私の1人遊びだった やっぱり小学生の頃の私は変わっていたのかな?
エルヴィンさんに変な女だと思われたかも…
沈黙が不安に変わる頃にエルヴィンさんを見る
『私もあの壁を見たくなった…連れて行ってくれないかな?』
今日一番キュンとする笑顔でエルヴィンが言った
ダムの壁に向かってエルヴィンさんが歩いて行く 右側にミケさん 左側にハンジさん 私はエルヴィンさんの後ろを歩き隣にはリヴァイさん 私達の後ろにミカサさんがいる
『なるほど…よく似ている』
エルヴィンさんが後ろにいる私を見ると 背後から風が強く吹いて エルヴィンさんのカーディガンが風で揺れた
ーー鐘が鳴り響くーー
〔開門30秒前!総員出立準備!〕
〔まったく退屈な男達だよ…アンナは協力してくれるよね?〕
〔うるせぇ奇行種は黙れ〕
〔団長が許可したら いつでも協力するよ でも今回はダメ我慢して〕
〔第49回壁外調査を開始する!前進せよ!〕
風が抜け 団員たちのマントが…調査兵団のシンボル自由の翼が風に揺れる
馬の嘶き 団員達の雄叫び 蹄の音 馬車の車輪が軋む音
先頭を走るのは…私の心臓を捧げた人
〔アンナ…私は死ぬだろう だが私に構うな リヴァイが獣の巨人を仕留めるまで…最後までアンナはリヴァイを守れ〕
〔それは…命令?〕
〔命令ではない…私の願いだ〕
記憶の渦にのみ込まれ目眩のような感覚に襲われ視界が歪む
「大丈夫か?」
遠くでリヴァイの声がした
でも私の目は愛しい人の背中しか見えない
リヴァイが伸ばした手は私には届かず
私はエルヴィンの背中に手を伸ばし強く抱きしめた