第12章 懐かしい顔と新しい顔
彼自身、とうに人であることを捨てている。
あらゆる部位を人形のパーツにし、強化してきた。
一つ一つ変えていく度に人であることを捨ててきたのだ。
お陰で痛みや病気とは無縁の人生となった。
けれど、どうしても心臓だけは置き換えられなかった。
その為、今もサソリのパーツの奥深くで隠されるように脈打っている。
捨ててしまいたかった。
忌々しい生身など捨てて、今も残る煩わしい感情ごと葬ってしまいたかった。
だが、本当にそうなのだろうか、とエニシと相対した時に思ったのだ。
彼女から感じた愛憎のような相反する心情。
自身にも一つだけ覚えがあった。
両親への恋い慕うような熱情と、自分を孤独に突き落とした怨みのような真っ黒な憎悪。
煩わしい、くだらない、と思ってもどうしても消えずに燻っている、彼の生身だ。
「…知りたいから知る。知った後どうしようと何を思おうと俺の勝手だろ。」
「’’私’’をあなたに教えるメリットがあって?」
彼女は、薄っすらと冷たく笑う。
それに応えるようにサソリは鼻で笑い、人形を構えた。
「だったら、引き摺り出すまでだ。」
そう言って、見せ付けるように一枚の札を取り出した。
それを見て、彼女は眉を顰める。
忍具の厄介さは彼女も知っていた。
エニシの中から常に外の情報は得られている。
自分をエニシから引き摺り出すと言うのだから、出来る道具なのだろう。
普通はあり得ないが、彼ならばもしかすると、と考えてしまう。
なるべく無駄は避けたかった。